葦の音
Material / Glass, Wire
Technique / Hot work
Size(mm) / Dimension Variable
Year / 2022
Work with Yuki Shibata, Yukako Shima
a moment in time
ガラスは器をはじめとする暮らしの道具として、また窓ガラスや建築の資材として、現代の生活に馴染み深い素材です。その一方で、60年代後半から70年代初頭にかけてにアメリカで起こったスタジオグラスムーブメント(※1)により、アートにおける創造のマテリアルとして広く定着し、工業・工芸の域を超えた発展を続けています。ガラスの成形技法には高温で溶かし柔らかな状態の素材を加工する“ホットワーク” (※2)、電気炉(キルン)の中で形成する“キルンワーク” (※3)、固い表面を削ったり、彩色を施したりする“コールドワーク” (※4)の大きな3つの分類があります。また、ガラスを用いたコンセプチュアルな表現では、幾度となく素材とのやりとりを繰り返し寄り添うようにして形を導き出す、制作プロセスやコンセプトとの融合がうかがえます。
日本においてガラスは、透明で無機質なマテリアルであると受け取られる印象が強いように感じますが、このような様々な技法や表現手法を駆使することで作家のイメージを授けられた作品は、精神性を宿し、その佇まいに光を包有することで有機的な表情さえ魅せてくれます。また、熱を受けた動き、光の透過、研磨・鋳造された質感など、制作を行う中で出会う素材の現象や、フィジカルな制作工程から導かれる造形表現も生まれてきます。
さまざまな技法や表現手法を用いて素材の潜在力に問いかける中で我々は、腐食や変質などの経年変化がほとんどなく、自然環境内で永劫に近い時間を宿すガラスというマテリアルに対し、保存や記録、記憶のイメージを。また、内包する光や加工技法により、存在しているのに、どこか朧げな佇まい。風化したような、はたまた自ら形を失っていったかのような印象を想起させる様子から、心象、気配のイメージを重ねました。
本展では、形のないものを顕現するメディアとしてガラスを捉え、生の営みの中で感じるものごと、自身や周囲に存在する微かな記憶、一瞬の現である森羅万象の中に潜む気配をガラスに重ね留めようと試みます。グローバル化が進み、様々な情報は世界規模で共有され、取り扱うことが可能になりました。こうした動向は、今まで見えていなかった問題を表面化させ、よりよい世界を築くための一助となっているといえます。しかし同時に、特定の問題がトレンド化し、今まで気づかなかった価値観に日々触れる中で、自身にまつわる身近なものごとへの感覚はおざなりにされているのではないでしょうか。
”ふと、心が触れたとき” 加速主義的な現代において、身体性を伴う世界との対話の形を問い、自分自身の感覚の肌理を見つめ直すきっかけになると幸いです。
(※1)ハーヴェイ・リトルトンを中心とした当時の若手アーティストによる、ガラス素材を用いた自由なアート表現を目指す芸術運動。作家個人の小規模なガラス溶解炉所有を推奨し、工場に頼らない創作活動を目的とした。
(※2)約1000℃以上の高温で水飴のように溶けたガラスを加工する技法。
(※3)500℃〜1000℃に熔けたガラスの状態変化を利用し、ガラス同士をくっつけたり、形を曲げたりする。また石膏などの型に鋳込んで形成する技法。
(※4)常温のガラスの表面に加工を施す技法。切子やステンドグラスはこれにあたる。
2022 a moment in time, Atorion, Akita, Japan